使用説明 2: 任意の系の化学ポテンシャル図(温度固定)の作成

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この解説ではChestaバージョン3.4.3を使用しています。

はじめに

この記事では、例として、温度1100 KにおけるFe-Si-O系の化学ポテンシャル図を作成する流れを説明します。

熱力学データの収集

まずFe-Si-O系に属する物質の熱力学データ(標準生成ギブズエネルギー)を熱力学データ集や文献から収集します。表1に筆者が収集したデータを示します。

表1 Fe-Si-O系の物質の標準生成ギブズエネルギー (1100 K)

物質ΔfG° (kJ mol-1)出典
Fe (s)0 
Si (s)0 
O2 (g)0 
Fe0.947O (s)-192.927[1]
Fe2O3 (s)-537.171[1] 
Fe3O4 (s)-762.463[1]
SiO2 (s, quartz)-712.805[1]
Fe2SiO4 (s)-1115.31[2]
FeSiO3 (s)-913.464[2]
Fe5Si3 (s)-204.794[2][3]より計算
FeSi (s)-68.11[2][3]より計算
FeSi2 (s)-94.839[2][3]より計算

[1] M.W. Chase Jr., NIST-JANAF Thermochemical Tables, fourth ed., J. Phys. Chem. Ref. Data, Monograph No. 9, 1998.
[2] I. Barin, Thermochemical Data of Pure Substances, VCH Verlagsgesellschaft mbH (1993).
[3] S. Cui, I.-H. Jung, CALPHAD: Comput. Coupling Phase Diagrams Thermochem., 50 (2017) 108–125.

データファイルの作成

収集した熱力学データを使用して、Chesta用のデータファイルを作成します。ChestaのデータファイルはCSV形式であり、Microsoft Excelやテキストエディタで編集できます。今回はExcelを使用します。

1. 化学ポテンシャル図で使用する座標軸を決めます。今回は表2のようにFe-Si-O系の独立成分をFe, Si, O2と考え、それらの化学ポテンシャルを表すlog aFe, log aSi, log (pO2/bar)を座標軸とします。aFe, aSiはそれぞれFeとSiの活量であり、pO2はO2分圧です。各独立成分の標準状態は、圧力1 barにおける純粋なFe (s) , Si (s), O2 (g)の状態とします。

表2 使用する座標軸

系の独立成分 (標準物質)座標軸
Felog aFe
Silog aSi
O2log (pO2/bar)

2. Chestaに付属する「データファイル作成ウィザード3.xls」をExcelで開き、マクロを有効にします。

3. 言語を選択します。

4.「データファイル作成」ボタンをクリックし、現れたウィンドウで「通常の化学ポテンシャル図 (log活量軸)」 を選択して 「Next」 をクリックします。この選択は、次の詳細設定画面の初期内容に反映されます。

5.手順1で決めた座標軸の設定等を入力し、「OK」 をクリックします。

6. 新しいExcelシートが開くので、各物質の情報を、1つの物質につき1行でシートの末尾に追記していきます。例えば、下図の54行目はFe2SiO4の情報です。まず、左端のセルから順に、列Aには「Phase」、列Bには物質名を入力します。列CからEには、各物質1 molが、系の独立成分であるFe, Si, O2から生成する反応式における係数を入力します。Fe2SiO4 (s)が生成する反応式は
  2 Fe + Si + 2 O2 = Fe2SiO4
なので、54行目の列C~Eはそれぞれ2, 1, 2となります。そして、列Fには生成反応の標準ギブズエネルギー変化をkJ/mol単位で入力し、列Gには活量シフト (通常は0) を記入します。

7. ExcelシートをCSV形式で保存し、Excelを終了します。保存する際、「CSV(カンマ区切り)として保存する場合、ブックの一部の機能が失われる可能性があります。」などの確認画面が表示されますが、気にせず保存します。

作成したデータファイル

Chestaを使用した化学ポテンシャル図の作成

前回の記事と同様の手順で、Chestaでデータファイルを開き、Fe-Si-O系の化学ポテンシャル図を作成します。

This article was updated on June 29, 2024